ブルーゾーン石垣シンポジウム|世界の長寿地域“ブルーゾーン”からひも解く、健やかに生きるためのヒント

基調講演のステージに登壇したのは、世界の長寿地域“ブルーゾーン”を長年研究してきた医学博士・安達宏氏。
科学的な視点から、健康でいきいきと年齢を重ねるための“共通点”を、やわらかい語り口で紹介してくれました。

ブルーゾーンとは、100歳を超えても自立した生活を楽しむ高齢者が多く暮らす特別な地域のこと。
地球上にわずかしか存在しないその場所には、実は私たちの毎日にも取り入れられる、たくさんのヒントが隠れているのだとか。

講演では、イタリア・サルディーニャ島、ギリシャ・イカリア島、コスタリカ・ニコヤ半島、アメリカ・ロマリンダ、そしてシンガポールという5つの代表的なブルーゾーンが紹介されました。
文化も宗教も、生活様式もまったく異なる地域なのに、そこに暮らす人々の健康には驚くほど“同じ要素”が見えてくるといいます。

安達氏が強調したのは、
「ブルーゾーンの人々は、特別な健康法をしているわけではない」
ということ。

畑仕事、散歩、家事——。
毎日の営みの中に自然と体を動かす時間が溶け込んでおり、“わざわざ運動時間をつくる”必要がないのだそう。

食事もとてもシンプル。
豆や野菜を中心とした植物性食品が基本で、動物性脂肪に偏りすぎない“やさしい食卓”が受け継がれています。

さらに、ブルーゾーンの大きな特徴として語られたのが、
家族や地域とのつながりの濃さ。

世代を超えたコミュニケーションがごく自然で、高齢者も地域の大切な一員として役割を持ち続けています。
こうした“役割を持てること”や“誰かとつながっている感覚”が、生きる力や精神的な安定を育み、健康に深く関わっているといいます。

印象的だったのは、安達氏の言葉。
「健康は、意志の強さだけでつくれるものではありません。」

階段を思わず使いたくなる建物、散歩したくなる街の風景、自然と会話が生まれる暮らしの場。
心地よい環境があれば、人は無理をしなくても健康的な選択を重ねていく——
という考え方は、とても優しく、そして力強く響きました。

後半では、沖縄や石垣島の現状にも触れられました。
かつて沖縄は世界的な長寿地域として知られていましたが、食生活や生活スタイルの変化により、近年は健康指標が変わりつつあるといいます。

それでも、地域のつながりや伝統的な暮らしの中には、今もなお“健康につながる文化”が息づいている。
安達氏はそれを「失われたのではなく、眠っているだけ」と表現しました。

昔からあった自然との距離の近さ、人との助け合い、役割を持ち続けること。
その価値を現代の生活に寄り添う形で取り戻していく——
そこに沖縄・石垣島が本来持つ力があるのだと語られました。

この基調講演は、「健康とは何か」「長く生きるとはどういうことか」を、医学だけでなく、生活・地域・環境といった広い視点で考えるきっかけとなりました。特別な方法に頼るのではなく、
毎日の小さな選択と、心地よい環境づくりが未来の健康を育てていく。

静かで、でも確かなメッセージが会場全体にゆっくりと広がっていく——
そんな温かい時間となりました。

(医学博士、地方創生プランナー、㈱ウェルネスメディカル研究所 代表取締役)


安達宏

ライオン株式会社でアンチエイジング研究に携わる。東海大学医学部研究員を兼任し、ブラジル国サンパウロ大学等の学術機関と共同研究を推進。同社戦略推進室長として新規事業立ち上げに関わる。同社退職後、㈱ウェルネスメディカル研究所を立ち上げる。琉球大学非常勤講師を務め、全国の地域事業者とメディカルウェルネスプロジェクトを推進中。