ブルーゾーン石垣シンポジウム|パンがつないでくれる、やさしい交流と“動き出す”健康習慣

本セッションに登場したのは、全国のパン文化を取材し続けてきたパン愛好家・ひのようこ氏。
「パン」という身近な存在が、人と人をやさしくつなぎ、自然と体を動かすきっかけにもなる——そんな新鮮な視点を、温かな言葉で届けてくれました。

パン愛好家・ひのようこ氏

最初に語られたのは、ヨーロッパ各地に残る“共同窯”の文化。
家庭ごとにオーブンを持つのではなく、地域にひとつだけある大きな窯にパンを持ち寄り、みんなで一緒に焼く。
その場所には、焼き上がりを待ちながら親しげに会話が生まれ、パンづくりが自然と交流の場をつくっていました。

そんな歴史ある風景は、現代にも形を変えて息づいています。
「パンフェス」や「パン屋巡りイベント」、パンを買いに街を歩く「パンウォーク」や「パンラン」など、パンを目的とした活動は全国各地で広がりつつあります。
お気に入りのパンを求めて歩くうちに、人と出会い、何気ない会話が生まれる。
その積み重ねが、自然な運動になり、気分転換になり、日々の健康にもつながっていく——そんな軽やかな循環が動き出しています。

ひの氏自身も、パンを通じた活動によって、年齢や肩書、住む場所を越えて仲間が全国に広がっていったといいます。
「好き」が同じというだけで距離が縮まり、心の通ったつながりが生まれる。
その温かな経験は、基調講演で語られた“つながりが健康を支える”という考え方とも響き合い、会場には穏やかな共感の輪が広がっていきました。

さらに興味深かったのは、パンが「行動を生み出す存在」であるという視点。
パン屋さんへ向かうために外へ出る、街をそぞろ歩く——。
わざわざ運動の時間をつくらなくても、パンが“歩く理由”になり、結果として身体活動が自然に増える。
車移動が当たり前になりがちな現代では、こうした小さな理由が、実はとても大切なのだと語られました。

パンそのものの栄養価だけで健康を語るのではなく、パンを取り巻く文化や行動、人との関係性に目を向けることで、健康の新しい捉え方が見えてくる。
本セッションで伝えられたのは、そんなやわらかくて奥深いメッセージでした。

パンという、誰にとっても身近な存在。
その香りの向こう側には、人を動かし、人をつなぎ、心を満たしてくれる力が静かに息づいています。
参加者の多くが、パンのある日常の小さな幸せと、その先にある健康をあらためて感じ取った時間となりました。

(パン愛好家/パンクラブ主宰)


ひのようこ

日本だけでなく、世界中にパン旅に行くのがライフワーク。旅先で出会った食材とパンのおいしい組み合わせを探求中。TV・雑誌などのメディアやSNS、イベント、トークショーを通じて、パンの魅力を発信中。これまでに食べたパンを記録しているデータベース“パンピューター”は現在7万6千種類。
出演:NHK Eテレ趣味どきっ!、TBSマツコの知らない世界、NHKごごナマ、日本テレビニノさんなど